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Vol.01 2013/6/25

 いきなりですが、まずはお詫びから。
藍峯舎の第二弾となる『屋根裏の散步者』は、当初「2013年春刊」と予告されていたにもかかわらず、7月末まで刊行がずれ込んでしまったことを深くお詫び申し上げます。

 「もう春も過ぎようとしているが、いったいどうなっているのか」という刊行予定についてのお問い合わせをメールや電話でいただくたびに、身の縮むような思いで弁解と説明に追われてまいりましたが、版元としては別にさぼっていたわけではないのです。

 泣き言は見苦しい限りなので、ここから弁解モードに全面突入するのは差し控えますが、要は半世紀以上も前に出版された、しかも「豆本」という特殊な形で製作されたものを、普通の形の本に仕立て直すには、並大抵の手間と時間では追い付かなかったということに尽きるのです。

 刊行からこれだけの時間を経れば、池田満寿夫の版画にも当然、相応の経年変化が生じており、拡大して使用するとなれば印刷用データの微妙な修復作業が必要となります。原画は極めて小さなものなので、それが汚れなのか表現上のぼかしなのか、にわかに判断しかねるようなところが多々あって、この作業にたいへんな時間を食われてしまいました。また細部のニュアンスまで再現するため、最新技術の高精細印刷を採用したのですが、その威力が発揮される最適の用紙を探すのがひと苦労で、ここでも試行錯誤を繰り返しました。

 などと説明を始めるとつい長くなってしまうのですが、それでも刊行が遅れたことから生まれた「怪我の功名」もございました。今回の出版にあたって当初から目玉の一つだったのが、中相作氏の書下ろしによる平井通の「評伝」です。亂步の実弟であり、真珠社を興してこの「屋根裏の散步者」を皮切りに数々の「豆本」を世に送り出し、マニアの間では伝説的な存在となったこの奇人については、富岡多恵子の長編小説「壷中庵異聞」のモデルとしてご承知の向きも多いかもしれません。しかし、亂步の弟なら当然というべきか、この平井通も一筋縄ではゆかぬ複雑怪奇なキャラクターの持ち主であり、「かわらけ(無毛の女性器)」や「女相撲」の研究者、風俗文献のコレクターにして有名な春本「おいらん」の作者、あるいは亂步の小説のいくつかの代作者、などと真偽取り混ぜ数々の噂に包まれたミステリアスな人物なのです。

 そんな平井通の評伝執筆にあたって、中氏は可能な限りの関係文献を渉猟、点検し、夥しい証言の矛盾点を整理して推理を働かせ、さらには現地踏査まで進めたうえで、画期的な評伝を書き上げました。刊行の遅れにより時間的な余裕が生じたこともあって「中探偵」の推理は縦横に及び、さらに思わぬ新発見などから構想も拡がり、原稿用紙にして120枚を超す決定版の評伝が誕生いたしました。その詳しいご紹介は次回にあらためて、ということにいたしまして、まずは取り急ぎ今回は『屋根裏の散步者』刊行の遅れのお詫びと、刊行時期決定のご案内まで。

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